きつつきの宿

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エッセイ

中南米のギター ― 人種のるつぼ

〔ギターノート 2〕 日本でクラシック・ギターが流行り始めたのは1970年代だろうか。その頃のレパートリーはスペインを中心とするヨーロッパ大陸のものが主で、中南米はおおむね傍流か、ポピュラー音楽の「ラテン」に近い扱いだった気がする(そのころ全盛だ…

マヌエル・ポンセの「エストレリータ」

〔ギターノート 3〕 ラテンの人たちがアメリカ大陸にやってきて何世紀かが過ぎた。「いく時代かがありまして、茶色い戦争もありました。」(中原中也)何世代もの開拓のあと、高原や山あいに平和で静かな町ができた。長い夏の一日が終わり、農夫たちは家路に…

バーデン・パウエルの「カーニバルの朝」

〔ギターノート 4〕 ユーチューブで、Han Eun(ハン・ウン)さんという韓国の女性ギタリストが演奏した「カーニバルの朝(Manha de Carneval)」を聴いた。素敵な演奏だ。 この曲は、映画『黒いオルフェ』のメインテーマ曲で、映画も歴史に残る名作だが、音…

「枯葉」~ Yenne Lee

〔ギターノート 5〕 前回の記事『カーニバルの朝』は Han Eun(ハン・ウン)さんの演奏がきっかけだが、今回は Yenne Lee(イェン・リー)さんのユーチューブ演奏『枯葉』から。 韓国の女性ギタリストは、このような憂いあるメロディーを歌うように弾くのが上…

アナ・ヴィドヴィチさんのコンサートの想い出

〔ギターノート 6〕 前の記事で、近年は女性ギタリストが活躍していると書いたが、趣味のギターを再開したころ、何十年ぶりかに行ったギター・コンサートが、アナ・ヴィドヴィチさんだった。 クラシック・ギターのコンサートはもともとあまり多くないが、私…

ピアソラ賛歌

〔ボカの石畳〕 〔ギタノート 7〕 西欧によるアメリカ大陸への進出は、北米と中南米でかなり異なる歴史をたどった。その違いは、時代や風土もあるが、民族の違いが大きかった。特に音楽は民族性が反映される。北米はアングロサクソン系が中心となり、これに…

ピアソラ賛歌(続)― 『最後のグレラ』

〔ギタノート 8〕 ピアソラの『La Ultima Grela(最後のグレラ)』のギターアレンジ版を練習。この曲は、たまたま買った Victor Villadangos というひとの ‘Tango Argentino’ というCD(✻1)で聞いて、すっかり好きになっていた曲だ。最近この楽譜をようやく入…

想いの届く日 ― K・ガルデル

〔ギタノート 9〕 ピアソラとともに、アルゼンチンタンゴのギター曲で重要な人がカルロス・ガルデル(1890-1935)だ。 二度の世界大戦にはさまれ、平和な期間は短かったが、現代文化が狂ったように花開いた時代。その申し子のように華やかで短い人生を駆け抜…

トロイロとアリアスの「スール(南)」― ノスタルジーとユートピア

〔ポンページャ〕 〔ギタノート 10〕 プロローグ/ アルゼンチンタンゴの名曲:『スール(南)』(ギターアレンジ版)について。 これもビラダンゴスの名盤『タンゴ・アルゼンティーノ』で知った。だがこの曲については作曲者がアニバル・トロイロという人で…

セリエ・アメリカーナ

〔ギター・ノート 11〕 ヘクトル・アジャーラ「セリエ・アメリカーナ」 この曲を知ったのは、福田進一さんの名盤:JONGO(1996年)である。中南米の佳曲を集めたこのCDの中で、ピアソラやポンセの間に埋もれた地味な曲と思っていたが、そのいくつかのメロデ…

ギター再開 ― 小林隆平さんのこと

〔エクアドルの町〕 〔ギターノート 1〕 はじめに クラシックギターが趣味で、ただ弾いて楽しんでいる。教室にも行かず、好きな時に好きな曲を弾いて、飽きたら次の曲にを繰り返し、ぐるぐる回っている。自由気ままが好きで、人前で演奏するのも苦手だ。(…

少年の故郷

その世界は蜃気楼のように消えてしまったけれど、それがあった土地(空間)は、それだけの大きさをもたまま、まだそこにある。 その時代そこにあった世界は、そこを去った後、少しずつ形を変えていった。建物は古び、取り壊され、更地になった。新しい道路が…